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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)1415号 判決 1982年10月18日

原告

大井建興株式会社

右代表者

大井友次

右訴訟代理人

四橋善美

高澤新七

今村憲治

被告

株式会社総合駐車場コンサルタント

右代表者

堀田正俊

右訴訟代理人

安藤恒春

主文

一  被告は原告に対し、被告の額面金額五〇〇円の普通株式四〇〇〇株の株券を発行せよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五一年四月二日設立した発行済株式数一万二〇〇〇株の株式会社である。

2(一)  原告は、被告の設立に際して、額面金五〇〇円の株式二六〇〇株を引き受けて株主となつた。

(二)  原告は、昭和五一年四月三日、被告取締役会の承認を受けて、訴外高野憲二、同大井敏雄、同山田文次、同桜木郁夫、同堀田正俊、同丹羽正男、同蒲博幸から各二〇〇株づつ、合計一四〇〇株の被告の株式(額面金五〇〇円)を譲り受けた。

(三)  被告は、原告の請求にもかかわらず、設立から六年五月を経過した今日まで株券を発行しない。

よつて、原告は被告に対し、被告の額面金五〇〇円の普通株式四〇〇〇株の株券を発行することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項及び2項(一)(二)の各事実は認める。

2  同2項(三)の事実は争う。

三  抗弁

被告は原告のために額面金五〇〇円の普通株式四〇〇〇株の株券を作成し、占有改定の方法で原告に交付したが、被告は原告に対して約四〇〇万円の売掛残代金債権を有しているから、右支払を受けるまで、商事留置権に基づき右株券の現実の引渡を拒絶する。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実の内、売掛残代金債権の存在は否認し、商事留置権は本件においては商法五二一条の要件を満たさず成立しない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1項及び2項(一)(二)の各事実は当事者間に争いがない。

二そこで被告主張のように株券発行が株券の占有改定で足りるかについて判断ずるに、商法二〇四条一項、二〇五条一項によれば、株式譲渡は原則として自由であり、それは株券の交付にもとづいて行うべきものであるから同法二二六条一項は、これを保障するため会社が遅滞なく株券を発行すべき旨を定めており、右趣旨を勘案すれば、株主が株券発行を求めている以上、現実に株券を引渡すべきであり、単なる占有改定の方法による引渡では株券発行とは解し得ない。

三争いのない前記一の事実によれば、本件株式のうち一四〇〇株については、原告は原始株主ではなく、他から意思表示のみによつて譲り受けたものであり、従つて商法二〇四条二項との関係で、かかる株券発行前の株式譲渡の効力が問題となる。しかし同条項の法意を考えると、株券の発行が不当に遅延し、信義則上も株式譲渡の効力を否定するのを相当としない状況に至つたときは、会社は右株式譲渡の効力を否定できないものと解すべきであり、そしてこの場合右状況に至つた後の株式譲渡のみならず、右状況に至る以前の株式譲渡であつても、後に右のような状況に至つた場合には同様に解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記一の事実によれば、原告は被告設立の翌日において、一四〇〇株の株式を譲り受けたものであるが、被告は設立後六年五月を経過した現在まで株券を発行しておらず、しかも右譲渡は被告取締役会の承認を得てなされたものであつて、弁論の全趣旨によれば被告はこの点を争うものでないものと認められる。そして右遅延している合理的な理由について、被告は何ら主張、立証していない。このような事情の下では、原告は被告に対し、株券発行前の譲受株式について株主であることを主張しうるものといわざるを得ない。そしてこの場合、右のように被告は原告を完全な株主として認めざるを得ないこと、原告が未発行株券に関し株式譲渡人に比してより強い利害関係を有していること、株券交付請求権が原始株主のみに帰属しているとの法理は存しないことから、原告は被告に対し、単なる譲渡人の株券受領代理人としてではなく、株主として、自己の名において、譲受株式について株券発行請求権を有するものと解すべきである。

四次に被告主張の商事留置権について判断する。

株券の発行は株券の作成と現実の引渡を要することは前記二のとおりであるところ、原告は本訴において、被告会社の株主たる地位に基づいて右のような株券の発行手続を求めるものであつて、かかる株券発行請求権は株主が社員たる地位において会社に対し有する当然の権利であり、これに対し被告は、右のような発行手続の一環をなす株券の引渡を留置権をもつて拒絶することはできない。被告において、作成したが、未だ現実の引渡を了せずにその手元にある右株券は原告との商行為によつて自己の占有に帰したものとはいえないからである。従つてその余を判断するまでもなく、被告の前記抗弁は理由がない。

五よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(田辺康次 合田かつ子 西田育代司)

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